ひろえあきらの思いつきコラム
立教大学キャリアデザイン研究会の特別顧問をされている廣江彰(立教大学経済学部教授)のつぶやき系コラム。
毎週末更新!

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2006.3.5  誇りを失うことなく、多くの年齢(とし)を重ねた


さらに続く映画と音楽の第五弾、アメリカはモンタナ、雄大な自然が背景のお話しです。

ブラッド・ピット主演(ですね?アンソニー・ホプキンズもいい役ですが)の邦題「レジェンド・オブ・フォール」で滔々と流れるジェームズ・ホーナーの曲、とくれば「タイタニック」の催涙剤のようなメロディが頭に浮かぶ方も多いでしょうね。実際、曲想にはタイタニックを感じさせて余りあるアメリカン・ルーツ・ミュージック訛りが感じられるはず。

で、私が取り上げたいのは、劇中でヘンリー・トーマス(三男サミュエル)が歌うひとつの曲。

ネイティブ・アメリカンを迫害する騎兵隊に疑問を感じたパパ・ラドロー大佐(ホプキンズ)がモンタナの自然に居を構え、やがて妻にも見捨てられて三人の息子と暮すこの物語、長男アルフレッド(エイダン・クイン)、次男トリスタン(ブラッド・ピット)、ハーバード大出の三男サミュエルという男所帯に、サミュエルとやって来た美しい許婚(古くてクサイ表現にお許しを!)スザンナ(ジュリア・オーモンド)が加わればひと波乱は起ころうというもの。

サミュエルがスザンナのピアノで歌う劇中歌、エンドタイトルとともに繰り返されますが、フィドル奏者はJay Ungar。TV番組"SONGS OF THE CIVIL WAR"で名曲"ASHOKAN FAREWELL"などを披露するアメリカン・ルーツ・ミュージックの代表的ミュージシャンです。彼独特のフィドルがお気に入りなら、アメリカ建国史が「隠し味」となっている映画の観方が変わるかも!

2006.2.26  逝ってしまった少年のことを、唄ってくれ


まだまだ続く映画と音楽、第四弾の今回は海のお話しです。

ジェフ・ブリッジス主演の映画「失踪」。ゲッ!と驚いたのは、相手役がキーファー・サザーランドだから。ご存知「24」のジャック、あの24時間たたかっている、しかも不死身の方ですね。「24」を初めて観たとき、どこかでみたことある?と思ったわけだ。

「失踪」の主役ジェフ・ブリッジスは、映画「白い嵐」でのスキーパーが実に格好良く、はまり役でした。しかし、「失踪」では見事なばかりに胡散臭いおっさんに変身。制作時代がさほど違わないのに、見事な化け振り。さすが俳優ですねえ。

「白い嵐」の舞台は南の海。ちょうど、人類初の月面着陸ラジオ実況中継と同時進行で、嵐に呑まれた練習帆船が乗り組みの少年たちを閉じ込めたまま沈んでいくあたり、哀しい…。
主演ジェフ・ブリッジスのパパは、「潜水王マイク・ネルソン」というTVドラマでかつて一世を風靡した方。私も毎週欠かさず観ていました。みなさんのパパ、ママなら知ってるか?

で、「白い嵐」は監督がリドリー・スコット。彼の大作よりこの映画、ずっと良いと思う。
とくに、船と共に海底に沈んでいくスキーパー夫人が、生前、スキーパーと二人で踊るシーンはこころに残ります。スティール・ ドラムの演奏に合わせ、やがて"運命に引き割かれる"二人の踊る音楽が"O'er The Sea To Skye"だなんて、 心憎いばかりの「うんちく」でした。

2006.2.19  シーンを彩る音の連なり


勝手に「ご好評」の映画と音楽第三弾、今度はアジア編です。

映画「シュリ」は韓国に潜入した女性スナイパー(キム・ユンジン)と韓国の情報機関員(ハン・ソッキュ)との恋、という日本人には切迫感を認識しづらいお話しでしたが、映画に挿入されたCarol Kiddの"When I Dream"、記憶に残っているという方も多いはず。
ハン・ソッキョの「夢の中」、オープンカフェの場面で流れていたあの曲です。

同じく南北対立が背景の「JSA」、挿入歌の「二等兵の手紙」と「届かない手紙」が印象的でした。歌っているのは 김광석(キム・グァンソク)。1996年32歳で自死した386世代。30歳台、80年代に大学生、60年代生まれ、という世代のひとりでした。

彼の歌声、ソン・イェジン主演の邦題「ラブストーリー」でも聴けます。
「悲し過ぎる愛は、愛ではない」というブルースっぽい挿入曲、95年8月23日の独演ライブですが、映画観客にはソン・イェジンの涙がいっそうやるせなく迫って来たでしょうね。

ある日本映画人、「韓国映画人は音楽の使い方がうまくない」と書いていましたが、韓国映画人にとっては観客との感情共有が「音楽」引用の役割、ということなのかも知れないですね。

あなたにとっての大切なシーンを彩る音楽、決まったもの、きっとありますよね?

2006.2.12  勝手に「ご好評」の音楽第二弾、をお届けします。


Amanda McBroom(アマンダ・マックブルーム)を知っていますか?
知らない、ですよね。
でも、ベッド・ミドラー主演の映画「ローズ」、ご覧になった方はいるでしょ。
ミドラーが歌う「The Rose(ローズ)」、恐らくどこかで聴いたことはあるはず。
実は、「ローズ」の作曲者がアマンダ。彼女自身が歌った「ローズ」のCDもあります。
「昔風」に言えば、彼女はシンガー・ソングライター。"The Portrait"なんてステキです。

で、アマンダの"Ship In A Bottle"という曲に、"And I wait for the heart / Of a little boy sailor/ To come break the bottle/ And help me be free. "というナカナカの歌詞があって、なぜか例の大ヒット映画 "THE LORD OF THE RINGS" を思いついてしまいました。

アラゴルンに「何を恐れるのか?」と聞かれたエオウィン姫の答えは"A cage "。
剣の使い手は、お姫様だからといって「鳥籠」の中に押し込められるの、イヤなんですね。
で、姫が"A cage "に続いて言う台詞のひとつはこのようなもの………
"And all chance of valor has gone beyond recall or desire."

みなさんの「ボトル」や「鳥籠」、エオウィンの剣で壊してしまったら気分いいと思いません?

2006.2.5  ときには言葉も音楽のように響く


2月になりました。春もすぐそこですね。今回はブログ(1月30日)に触発され、お題は「音楽」。

音楽そのものの映画、「仮面の中のアリア」(1988年)をあなたがご存知なら、よほどの通です。
原題を直訳すれば「音楽の先生」。バリトン歌手ジョアキムが名声の絶頂で突然引退を表明し、残された命の期限をたった二人の弟子を育てることに充てる、というお話しです。
弟子のひとりソフィ(当然、女性ですね)は、ジョアキムの才能に惚れ込んだ押しかけ。そのソフィにジョアキムの妻が言います。「彼は恋をするわ、声にも、あなた自身にも」

この映画、監督ジェラール・コルビオの選曲が冴えてます。邦題の「アリア」とは、ベルリーニのオペラ「ビアンカとフェルナンド」からテノールのアリア"A tanto duol(たくさんの哀しみが)"のこと。知ってるヤツいないだろうが、という曲がクライマックスなんて、心憎いばかり。

で、ブログの"PHENOMENON"。女性によっては「生理的にダメ〜!」というトラボルタ演ずるジョージは、ある日天からの閃光を浴び「超能力者」になってしまいます。能力ゆえにまちの人々は遠ざかり、政府も彼を危険視。実は重い脳腫瘍で死の間際にあるジョージは、恋人レイスのもとで最期を迎えようと幽閉されていた病院から脱走、レイスとつかの間の時を過ごします。
追ってきたFBIのジャックにレイスが投げる言葉が"How would you want to die , Jack?"

「恋」も「死」も、おとな世界の言葉のやりとりが、音楽のように響く瞬間ですね。

2006.1.29  加賀群青?


ご好評(ですよね?)につき、前回に続いて今回もお題は「色」で。

BBC制作、アイリッシュ音楽の歴史的旅路を追った番組"BRINGING IT ALL BACK HOME"の中に、J・F・ケネディ大統領が1963年アイルランドはゴルウェイで演説するシーンがあります。天気が良ければ港の西にボストンが見える、という彼の冗談に聴衆がどっと湧いて拍手喝さい。
ケネディはアメリカの歴史で初めて、アイルランド系にしてカソリック信者の大統領。アイルランドとケネディは濃い血で繋がっている、というアイデンティティが演説の根底にはあります。

「対岸」にあって、アイリッシュの雰囲気が強く残るニューファンドランド島を舞台にした映画"SHIPPING NEWS"では、ケヴィン・スペイシーがいい味出していました。冒頭吹雪の中、縄を結ぶごっつい手の大写しにクリストファー・ヤングの音楽が被って印象的でしたね。

アメリカに残るアイリッシュの痕跡、探すとキリなさそうです。たとえば「赤毛」という呼び名。
そんな赤毛が登場するのはスティーブン・キング原作の「ショーシャンクの空に」。映画でモーガン・フリーマン演じたレッドはアイリッシュ、というのが原作の設定でした。
原題"Rita Hayworth and Shawshank Redemption"は、知恵は身を助けるという、自分の職場に連れて帰りたくなるお話しですが、映画終盤、レッドのモノローグも印象に残っていませんか?
       “I hope the Pacific is as blue as it has been in my dreams.
        I hope

2006.1.22  Blue Skies

21日(土)は東京も雪でしたね。雪に埋もれたとても静かな土曜日でした。

雪といえば、クリスマス。クリスマスといえばホワイト・クリスマス。ホワイト・クリスマスといえばアービング・バーリン(Irving Berlin)ですね。    エッ、ご存知ない!
ホワイト・クリスマスは彼の代表作のひとつ。でも、今回は雪ではなく、青空のお話し。
代表作ブルー・スカイの歌詞に"good luck came a-knocking at my door"とあります。

映画"Glengarry GlenRoss"はなぜか「摩天楼を夢見て」という邦題。摩天楼なんてとんでもない男たちが登場、雪ならぬ土砂降りの雨の中で怒涛のようにわめき合います。
で、この映画で使われる音楽がブルー・スカイ。エンドタイトルで流れるブルー・スカイがとっても皮肉で哀しい。
しかし、登場する俳優たちは豪華です。セールスマン役にジャック・レモン、アル・パチーノ、エド・ハリス、アラン・アーキン、事務所長がケヴィン・スペイシーで本社からやってきてハッパをかけるエリートがアレック・ボールドウィンですからね、こ れ は スゴイ、です。

内館牧子さんが、この映画を「ただひたすらに、男たちが日常を背負って働く姿だけである」(『あなたはオバサンと呼ばれてる』講談社)と評しているのは、さすが。
アル・パチーノの台詞"Anyone in this office lives on his wits."が胸に刺さります。でも、そこまで追い込んでいく「現実」は、男ばかりではなくみなさんの目の前にもありますよね。

2006.1.15  カラスなぜなくの?

近ごろの現象ではないのですが、今回は大のオノコが人前で泣く、ということについて。

実は(というほどでもないか?)私の「本職」、大学教員であります。
1月11日は私が担当している経済学部ゼミナールの05年度最終日。そこでのお話しです。
最終日お約束の「打ち上げ」は、ご近所のメキシカンで2千9百円ポッキリ飲み放題。とはいえ、食べ物はすぐになくなるので、飲んでばかりで酔いのお迎えも早めにやってきます。
もちろん、「打ち上げの」山場は食べることでも、飲むことでもありません。ちゃんと学生なりに、今年「山場」がセレモニーとして用意されていました。

セレモニーは「ありがとうDVD」の贈呈式。1年間のお世話に感謝し、記念のDVDを3年次生にプレゼントします。このDVD、結構手が込んでいて3年次生一人ひとりについて一年間の姿を5分前後の映像に、それも2年次生の一人ひとりが編集したもの。ゼミ活動の豊富な映像が残り、ゼミ生は映像編集のスキルを持っている、という威力は大いに発揮されます。

自分宛DVDを手にした3年次生が、大いに涙したことはいうまでもありません。
送る方も送られる側も「想定内」の涙、涙、涙…。それにしても、よく泣くひとたちです。
体育会は応援団の新旧交代セレモニーで花束を贈られた「団長」が大泣き、という記事を数年前に新聞で読んだような?その時は、花束かよ!涙かよ!ゲェッ!!と思ったものでした。
今の若者、何かにつけ泣くのが大好き。彼らは本質的に「やさしい世代」なんですね。

2006.1.8  パラドックス!

お寒うございます。いつまで続くんだろうか、この寒さ、とお思いでは?
どうやら記録的な寒さらしいです。
気象庁によれば、月平均気温は全国29地点で最低値を更新し、20年ぶりの低温とのこと。
20年ぶりは降雪も同じ。昨年12月からの累積積雪量は過去10年平均の3倍だとか。

昨年の予報では、たしか今年の冬は暖冬だったはず。世間も、地球温暖化だから冬も暖かい、
と思い込んでいたような気が………。
昨年、金沢市は近江町市場の源平寿司でのこと。夏の初めに季節ものサンマの握りを頼んだら、
帯広沖産だという。というのも、海水温が高くて三陸沖産では寿司ネタにならないそう。
地球温暖化はそんなところにまで及んでいるのか、とサンマを摘みながら思ったものでした。

温暖化なのに記録的な豪雪、記録的な寒さはどうして?
「記録破りの」寒さといえば、映画「THE DAY AFTER TOMORROW」がありますね。冒頭、棚氷に至るシーン全てがCGというのも見事でしたが、凍る「自由の女神」もすごかった。
デニス・クエイド扮する古気候学者ジャック、温暖化の下で「寒冷化」を予測しこう答えます。
"Yes,it is a paradox,but global warming can trigger a cooling trend."
温暖化が極地の氷を解かし、海流を変え、ついには流れを止めることが原因との仮説ですね。
日本の寒さは「北極振動」仮説が有力らしい。いずれにしても、地球温暖化=暖冬ではないということ。ものごとを単純に考えてはいけない、という警鐘のような気さえします。

2006.1.1  正月はめでたい!

明けましておめでとうございます。
みなさんにとって、今年がより良い年でありますように。

…と書いて、なぜ「明けるとめでたいのか?」と思ってしまった。「職業病」ですね、これ。
そういえば、昔そんな本読んだっけ、と思い書架(ただ本が山積みになっているだけなんですが)を探すこと数時間。
ありました。

岩井宏實『正月はなぜめでたいか』(大月書店、1985年)という本でした。
で、なぜめでたいのか?岩井さんは、「正月が機械的に循環するこよみのうえでの最初の月で、元旦がその最初の日ということ自体では祝うべき理由はあまり見あたらない」といわれるのです。

フムフム確かに、専門家のお言葉、説得力ありますねえ。
暦法を使う前、日本人には春と秋の季節感しかなかった。そこで、年のはじめは春。暦でいえば「立春」の頃だそうで、その前日を「節分」とか「年越」というはこの季節感が理由とのこと。
岩井さんの説明によれば、「正月とはすべての生物が躍動する春を迎え、人々がその生命力の更新をよろこび、祝ったところに意味があり“めでたさ”があった…」

新年早々理屈をコネましたが、大いなる躍動めざす年の始まりです。
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